皆さんはブランデーがどんなお酒かご存知でしょうか?
ブランデーとは端的にいえば「フルーツから作られた蒸留酒」を指します。
その幅はとても広く、ヨーロッパを中心として世界中にはさまざまなブランデーが存在するのです。
本記事ではなかでも日本で比較的見かける機会の多いブランデーからちょっとマニアックな種類まで、ブランデーとくくられているお酒の種類をまとめると共にその違いを解説していきます。
ぜひブランデーの奥深い世界の一端を覗いてみてください。
ブランデーのとは?
ブランデーの定義とは?
ブランデーはフルーツから作られる蒸留酒の総称です。
語源はオランダ語の「焼いたワイン」を指すものと言われていて、その名の通りワイン(フルーツを醸造して作られたお酒)を焼く(熱して蒸留する)ことによって作られるお酒です。
ブランデーは必ずしも茶色くない
ブランデーというと上の画像のような茶色いお酒を思い浮かべるかもしれませんが、必ずしも茶色とは限りません。
そもそもブランデーやウイスキーなどの茶色い蒸留酒は蒸留された時点では無色透明の透き通った状態です。
この時点での味わいは非常に荒々しくトゲのあるものですが、これを木製の樽にいれて寝かせることで徐々にアルコールの角がとれ、樽の成分がお酒へ移ってまろやかで芳醇な味わいになります。
このとき、樽の成分の一部が色素を含んでいるために、樽で熟成させたブランデーやウイスキーは茶色くなっていきます。
樽の質にもよりますが、原則として長く寝かせれば寝かせるほど色は濃くなります。
しかしブランデーのなかには樽で寝かせることなく商品化されるものも少なくありません*1。
そもそも樽で熟成させるという行為は非常にコストのかかるものです。一部の嗜好性の強い商品はともかくとして、産地で日常的に楽しまれるブランデーは樽で寝かせることなく無色透明のままのものも少なくないのです。
日本でいうと焼酎に近い感覚ですね。
ブランデーの原料に使われるフルーツ
ブランデーの原料はフルーツです。
では具体的にはどんなフルーツが使われるのでしょうか?
これは挙げ始めるとキリがありません・・・というよりもほぼすべてのフルーツがブランデーになり得るのです。
しかし日本人にとってもおそらく世界的にみてもブランデーの原料として代表的なのは葡萄です。
日本人が日常的にブランデーと呼んでいるものの90%は葡萄原料のものを指しているといっていいでしょう。
次に多いのが林檎です。林檎を使ったブランデーは主にフランスのノルマンディー地方で作られるカルヴァドスが有名です。
昔から一部のマニアに熱狂的な支持を集めていた蒸留酒ですが、近年ではその華やかさからバーやフレンチをはじめ、さまざまな場所で楽しまれるお酒になりつつあります。
そして日本に流通する数は限りなく少ないですが、他にもすもも、桃、洋梨、杏、苺などなど、その土地で豊かに実る果実を使ったブランデーは世界中で無数に作られているのです。
ブランデーとウイスキーの違い
原料が異なる
ブランデーとウイスキーを混同している人は意外と少なくありません。
ウイスキーはフルーツではなく穀物(麦やとうもろこし)から作られる蒸留酒です。
つまり両者の根本的な違いは原料が穀物か果実かというところにあります。*2
細かい違いをあげれば発酵させる時点で糖化という行程が必要かどうか、熟成環境や熟成方法の違い、熟成させる樽の違いなど無数にあります。
しかしこれはブランデーの種類によっても異なるものなので、やはり最重要な違いは原料の違いといえるでしょう。
ブランデーとウイスキーの味の違い
ブランデーとウイスキーの味の違いを言葉で説明するのはとても難しいことです。
いずれも蒸留酒と呼ばれる強いお酒で、ブランデーに関しては特に日本では樽で寝かせたタイプが一般的なこともあり見た目もほぼ一緒。
蒸留酒を飲み慣れていない人が同じお酒(強くて飲みにくいお酒)だと認識してしまうのも正直無理はありません。
その違いはぜひじっさいにバーや酒屋などに赴いてお酒のプロとお話ししながら実感してもらいたいものです。
日頃から両方とも嗜む筆者がしいてそれぞれの魅力を答えるとすれば、ウイスキーは熟成の仕方や造り手ごとの個性から生まれる味や香りのバリエーションを楽しめるお酒。
ブランデーは果実由来の華やかながらも落ち着いた香りを楽しみながら、ゆったりとした雰囲気や空気感を楽しむお酒だと思います。
そのためウイスキーのほうが含蓄に富んでいてマニア受けし、ブランデーはゆったりとお酒を楽しむ時間そのものを楽しむ人に受ける印象があります。
あとはどちらかというとウイスキーは味覚で楽しみ、ブランデーは嗅覚で楽しむ側面が強いという印象ですね。
いずれにせよ両者とも大変に歴史もある奥深い嗜好品であることに違いはありません。
ブランデーの種類とその違い
ブランデーと括られるお酒のなかで、具体的な製法や地域まで定められているブランデーも少なくありません。
生産国を限定する程度のものから、具体的に国の特定の地域の特産品として細かく定義付けされているブランデーも存在します。
そうした細かな違いを除いていけば基本的には産地と原料の違いが大きいでしょう。
ここでは日本でも見かける機会のあるブランデーを種類ごとに分類し、それぞれの特徴についてまとめてみることにしましょう。
まずは以下の画像をご覧ください。
今回紹介するブランデーをまとめたものです。これをベースにそれぞのブランデーについてもう少しずつ深く掘り下げてみましょう。
コニャック
コニャックはフランスを代表するブランデーのひとつです。
それと同時に世界的に最も知名度の高いブランデーでもあり、ブランデーのイメージを作り上げているブランデーでもあります。
代表的な銘柄にヘネシーやカミュがあり、これらの名前は聞いたことのある人もいるのではないでしょうか?
フランスはコニャック地方で作られ、細かな規定に則っていなければコニャックと名乗れません。地理的にはあのワインで有名なボルドーの真北にあたる場所です。
コニャックは「ユニ・ブラン」「コロンバール」「フォル・ブランシュ」という葡萄品種をメインに使い*3、銅製ポットスチルでの単式蒸留を2回行ったあとフランス産オーク樽による熟成を2年以上行うことが義務付けられています。
嗜好品としての認知度も高くブランデーの中でも飛びぬけて高い商品も多いのですが、一方でコニャックと名のつくものはどれも一定以上の品質を維持しているため輸出や一流レストラン用のお酒などにも広く使われています。
アルマニャック
コニャックとセットで覚えておきたいのがアルマニャックです。
アルマニャックとコニャックはフランス産のブドウ原料のブランデーという点では同じですが、具体的に作っている場所と製法も少し違います。
ちょうどボルドーを挟んでコニャックの反対側、ボルドー南に位置するアルマニャックはコニャックよりもブランデー作りの歴史が古いと言われています。
伝統的な半連続式蒸溜機で丁寧に一回の蒸留で仕上げられるアルマニャックは、コニャックよりも野性味のある味わいで通好みと言われています。
コニャックが女性的、アルマニャックが男性的という表現がよく使われますが、確かに的を得た表現だといえるでしょう。
アルマニャックではユニブラン、フォルブランシュ、コロンバールといった品種が用いられます。日本での知名度はコニャックには叶いませんが、熟成させた古酒も多く現存しており、今後注目を集める可能性を秘めています。
まだまだ半世紀レベルの古酒を見つけだすことが用意なのがアルマニャックの魅力でもある。カルヴァドス
フランスのノルマンディー(ブルターニュも含む)地方は非常に寒い地域で葡萄栽培が盛んではありません。その代りに盛んなのが林檎の栽培。
そこで林檎を用いたブランデーが作られるようになりました。
一定の基準を満たした高品質な林檎ブランデーはカルヴァドスの名を冠して販売されます。
非常に芳醇で香り高く、コニャックやアルマニャックよりも原料である林檎の風味を感じやすいことから近年人気は高まりつつあります。
一部の地域で作られたカルヴァドスには洋梨を混ぜることも許されていてバリエーションも非常に豊富。日本にもコニャック、アルマニャックに次いで多く入ってきているのではないでしょうか?
中に林檎の実が入ったカルヴァドス。小さな実の段階で瓶を括り付けて成長させお酒を詰める。
洋梨の使用比率が高いことで有名なルモルトン。ヴィンテージ表記入りでも比較的安く手に入る。
グラッパ
イタリアもワインの産地として有名ですから葡萄の栽培も盛んです。そうなると当然ブランデーの生産も行われることになります。
なかでもイタリアのブランデーを代表するのがグラッパです。グラッパは葡萄の絞りカス(場合によってはワイン生産者がワイン造りの際に出たあまりのカスを使用する事もある)を発酵・蒸留したブランデー。絞りカスを使用することで独特の香味が生まれ、非常にクセが強いため好みが分かれやすいお酒です。
イタリアではポピュラーな食後酒とされ、エスプレッソなどと共に楽しまれるほか、安価な物はフルーツなどを漬け込んだりリキュールを作るための加工用としても用いられています。香草を漬け込んだタイプのグラッパも多く存在しますね。
ベルタ社のグラッパはグラッパとしては珍しく樽で熟成させるタイプで芳醇で華やか。そこにグラッパ特有の香りが加わり複雑に仕上がる銘酒。
マール
フランス版グラッパともいえるのがマールです。
マールもグラッパ同様に葡萄の搾りかすから作られます。
フランスでは無数にいるワインの造り手がそれぞれ片手間でマールを作ることも多く、名の知れた銘酒から生まれたマールも多数存在しています。
ブルゴーニュ産、シャンパーニュ産のマールが特に上等といわれ流通量も多いのですが、他にもフランス国内ワインの産地であればあらゆるところでマールは作られています。
食後酒としてチーズやお菓子と共に飲まれる事が多く、その独特の香味と相まって非常に通好みのブランデーだといえるでしょう。
シャンパンメーカーとして特に著名なモエシャンドンの作るマール
フィーヌ
フィーヌとマールの違いをサラっと応えられればブランデー好きを名乗れるのではないでしょうか?
マールとフィーヌは混同されがちなブランデーですが、そこには明確な違いがあります。
マールは搾りカスから作られるブランデーと紹介しましたが、ワインの造り手がワイン造りであまった葡萄の残滓で作ったブランデーです。
しかしフランスはワイン造りに並々ならぬ思いがあるため、ワインを作る時に葡萄を厳しく吟味し、基準に満たないものはワインにしません。
このときに弾かれた葡萄(場合によってはワインの搾りかすも混ぜる)によって作られたブランデーがフィーヌです。
基ワインの造り手が作るフィーヌは時として絶大なパワーを秘めていることもあります。
一流のワイン醸造家のフィーヌは待ち望む人も多く、生産量も年によってバラつきが多いため、ものによっては非常に稀少で価値のあるブランデーでもあります。
マール、グラッパよりもより一層通向けのブランデーとも言えるかもしれません。
コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエはワインにおいても絶大なクオリティと信頼を誇る造り手だが、フィーヌも非常に高価な金額で取りひきされている。フィーヌとは思えない力強いアロマと味わいが特徴。
ブランデー・デ・ヘレス(シェリーブランデー)
スペイン・アンダルシア地方のヘレスを代表するお酒といえばシェリーと呼ばれる酒精強化ワインですが、これ以外にもじつはブランデーの産地としても有名です。
そもそもブランデーの歴史はフランスよりもスペインの方が古いとも言われています。
ブランデー・デ・ヘレスまたはシェリーブランデーは葡萄原料のスペインブランデーですが、フランス系の葡萄ブランデーと比べると味に違いが存在します。
使われる葡萄の違いや熟成のさせ方に大きな違いがあり、総じて軽やかで気軽に楽しめるブランデーに仕上がります。
ロックやソーダ割りにも適したカジュアル感が嬉しいですね。
一方でソレラシステムという特別な熟成方法にこだわるシェリーやシェリーブランデー、中には非常に長期熟成を経た古酒も存在しそのバリエーションの底はまだまだ分からないといったところでしょうか。
ちなみにシェリーブランデーとはいっても「シェリー酒」を蒸留して作られるわけではなく、あくまでも「シェリーの産地で獲れた葡萄を使ったブランデー」です。
オルホ
スペイン版グラッパであるオルホ。
滓取りブランデーの一種としてスペイン北部で昔から作られてきたものです。
グラッパやマールと異なりほとんど日本には入ってきていませんが、シェリーブランデーが徐々に認知度を高めていく過程でオルホにも注目が集まる可能性もありそうです。
熟成させない無色透明なものから、少しだけ熟成させて黄色味がかったもの、しっかりと熟成させて琥珀色になったもの、ハーブを加えたものなど、意外にもその種類は豊富です。
ラキヤ
南スラブ人は旧ユーゴスラビアのボシュニャク、セルビア、モンテネグロ、クロアチア、スロヴェニア、マケドニア、ブルガリアあたりに多数居住している民族で、この民族の居住圏で作られるのがラキヤです。
ラキヤの特徴はスモモ、葡萄、梨、杏、桃、りんご、マルメロ、いちじく・・・さらには葡萄の絞りかすまで、多様な果実から作られる点にあります。
それぞれで名称が異なり、それがセルビア・クロアチア語系かブルガリア語系かでも異なります。
ハーブなどの添加物を加えることもあり、ラキヤを一概に括ることは難しいともいえますが、現状日本ではほとんど見かけることもないため、ここでは一括りにしてご紹介するにとどめておきましょう。
パーリンカ
パーリンカはハンガリーのブランデーです。
ハンガリーはじつはお酒の文化が非常に多様で、世界三大貴腐ワインのひとつであるトカイワインもハンガリーの特産品ですね。
パーリンカはハンガリー産の果実をふんだんに使用した蒸留酒で、ラキヤ同様にさまざまなフルーツから作られています。
樽で寝かせることなく、原料由来のフルーティな香りを楽しめる蒸留酒となっています。
2004年にはパーリンカを名乗るための法定基準が定められ原料の統一*4や蒸留・熟成方法などが指定され、国内でも大切な文化として守っていこうという兆しが強くなっているようです。
ピスコ
ピスコは南米ペルーで作られる葡萄のブランデーです。
原則としてペルーのピスコ地方で作られたグレープブランデーを指してピスコと呼びます。
無色透明から淡く黄金色に色づいたものが多く、現地ではカジュアルな楽しみ方をされています。
日本でも銘柄は限定されていもののピスコ自体は昔から輸入されていて、一定数のファンを獲得しているブランデーです。
フォルムが特徴的なモアイ型のピスコ
ブランデーとは?のまとめ
ブランデー、オードヴィーという言葉はお酒の分野を表すうえでとても広範な意味合いをもっています。
ブランデーと名乗るだけでも、ここでみてきたような有名所以外にもまだまだ世界的には無数のお酒が存在していると思うとワクワクしますね。
コニャックやアルマニャックのように規格化されていないブランデーも多数存在します。
そんななかには天才的な造り手たちが生み出す至高のブランデーも存在していて、一概に規格化されているから美味しい、規格外だから美味しくないとは言えません。
ブランデーを楽しむうえで、まずは今回ご紹介したような種類とその違いを把握してみることは大切ですが、最終的には個々のお酒の持つ魅力そのものを感じ取れるようになりたいですね。
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