フルーツに少し詳しい人であれば"追熟"という言葉を聞いたことのある人もいらっしゃることでしょう。
追熟とは収穫した果実をさらに成熟させることを指し、私たちが日常的に接する機会のある果物のなかにも追熟しなければ美味しくないものはたくさんあります。追熟は科学的にも説明できる行為で、特定の性質を持つフルーツにおいて行われるものです。
さらに筆者は本来追熟させないフルーツでも追熟同様のことを行うことで、そのフルーツの新しい魅力を発見できたり、より美味しく楽しむ事ができることもあると考えています。
しかし追熟や熟成はフルーツの美味しさを損なうこととも紙一重のもので、少し間違えれば腐敗してしまう可能性も秘めています。
ここではフルーツをより奥深いものにしている追熟や熟成・・・今回は原則として収穫後、消費者の手に渡ってから行うものを指します・・・にいて、筆者の経験談や巷の情報、すでに分かっている事実などをもとに、その面白さを整理してみましょう。
果物の追熟の原理
追熟する果物と追熟しない果物
果物には追熟するものとしないものがあることをご存知でしょうか?
例を挙げればメロン、キウイフルーツ、西洋梨、すもも、バナナは追熟するフルーツです。このように追熟するフルーツはクリマクテリック型果実と呼ばれています。
逆にパイナップル、リンゴ、イチゴ、ブドウ、スイカ、和梨などは追熟しません。これらのフルーツは果実としての形が完成された時点で食べごろとなるように育ちます。
追熟とはどのようにして起こるか?
クリマクテリック型果実は樹上で果実が出来上がった時点で中の種子は成熟状態にあります。周りの果肉にも十分な栄養が行渡っているのですが、あえてそれを蓄えた状態にして果肉自体は成熟しないように成長をストップさせているのです。
その後適当な時間をおいて果肉に蓄えられたデンプンが分解されグルコースやフルクトース(甘みが感じられる)となり、細胞壁を繋げているペクチンが分解され果肉がやわらかくなります。加えて芳香成分が放出され、はじめて甘くてやわらかく香り高い果物となるんです。
追熟システムは子孫繁栄のため?
なぜこんな面倒な育ち方をするようになったのでしょうか?じつは追熟は子孫をより確実にたくさん残すための知恵なのです。
通常の果実はあるシーズンになるとほぼ同時にすべての果実が成熟して食べごろになります。食べごろになった果実は種子ごと動物や鳥に食べられることで、子孫=種子を他の場所へ運んでもらって世代を繋げていきます。
しかし同じ瞬間にたくさん実がなってしまっては、すべての果実を動物や鳥に食べ残しなく食べてもらうのは難しくなってしまいます。そこで微妙に成熟時期をずらすことで少しでも長期間に渡って多くの動物や鳥に食べてもらって種子を運んでもらっているというワケです。
こうやって考えてみると追熟するフルーツの生命の神秘を垣間見たようで、よりこれらのフルーツを楽しめるように感じませんか?
追熟する果物の追熟方法
クリマクテリック型果実もすべて追熟が必要なわけではない?
クリマクテリック型果実は収穫してから追熟しないといけないと考えている人もいるようですがこれは間違いです。
そもそもクリマクテリック型に分類されるフルーツを購入してから食べごろになるで消費者の手で追熟させる必要があるのは輸送や販売におけるリスクを軽減するためです。
クリマクテリック型果実も時間さえかければ樹になっている状態で完熟します。しかし完熟するタイミングが個体ごとに差がありすぎる、完熟個体は傷みやすく輸送と保存に向かないというデメリットを完熟前に収穫することで軽減しているのです。
わざと未熟な果肉の状態で収穫し、輸送し、小売店や消費者の手で追熟してもらった方が手間もコストも低いため、製造者・販売者・消費者にとってお得なんですね。
贈答用やブランド物のフルーツのなかにはクリマクテリック型果実でもギリギリまで熟成を待つものもあります。太陽のタマゴなどに代表される国産・・・特に宮崎県産のマンゴーなどはまさにその代表例です。
追熟の有無や必要な時間は、品種や収穫からの時間などに左右されるためある程度の経験が必要ですが、ポイントをおさえればさほど難しいものではありせん。
追熟の方法
基本的に追熟の方法はとてもシンプル。
常温環境下で放置。それだけです。
しかしもう少し確実にかつ素早く追熟をすすめるためにいくつかのポイントがあります。ここではそれを確認しておきましょう。
保存する場所
過度な温度変化が起こると追熟より先に傷み始めてしまうので、保存する場所の気温には気を遣います。かといって空調を過度にかけると乾燥の原因にもなります。
基本的にはシビアに考えすぎず、夏ならなるべく風通しのよい涼しい場所、冬なら暖房をきかせている部屋のすみっこや隣の部屋あたりがオススメです。その季節のフルーツであれば無理して空調を使わずとも気温に適応してくれます。
エチレンが追熟を早める
多くの植物の場合、成長の促進を開始する合図として植物ホルモンが分泌されます。このホルモンがエチレンです。
そのためエチレンガスの発生量が多いりんごと一緒に追熟させたい果物をビニールなどで密閉すると、追熟を急ごうとして成熟が早まります。
りんごのなかでもつがるやジョナゴールドがエチレン発生量が多いと言われているので、少しでも早く追熟したい場合はこれらのりんごと一緒に置いておきましょう。
果物によっても追熟の見極めポイントが違う?
同じクリマクテリック型果実でも、追熟完了までにかかる時間や見極めポイントは違ってきます。
なかには洋梨のように予冷といってあらかじめ冷蔵する作業が必要なフルーツもあるんですよね(基本的に市販の洋梨は出荷前に予冷されています)。
各フルーツの追熟の見極め方に関して、筆者流の方法を以下の記事にてそれぞれ載せていますので参考にして追熟に挑戦してみましょう。
追熟しない果物の熟成はあるのか?
追熟しない果物も変化する
以前デコポンを熟成させるという記事を執筆しました。
この記事では本来追熟しないデコポンを購入後置いておくことで味わいが変化するということについて書きました。
皆さんも冬場に段ボールで買ったみかんが買った時より最後のほうが味が濃く感じたりした経験があるのではないでしょうか?
特に柑橘類に関しては本来は追熟しない果物でも、追熟と同様に時間を経ると甘さが増したり、味が濃くなったように感じることがあります。
これは基本的に乾燥と酸の分解によって起こるものと考えられます。
まず果物を放置しておけば、しだいに乾燥によって水分が抜けていきます。水分が抜けることで味が凝縮したように感じるようになるはずです。
さらに柑橘に含まれるクエン酸・・・すなわち酸味のもととなる成分は果物の呼吸に応じて分解され減少します。一般的には収穫時をピークにしだいに減っていくと考えられています。*1
このさいに糖分も一緒に分解しているのですが、クエン酸のほうが分解スピードが速いため、すこし時間を置くことで甘味が際立って感じられるようになるということなのです。
熟成か劣化か腐敗かは紙一重
しかし糖分と酸味はいずれも味に厚みを出すために必要な要素です。酸が抜けきってしまえば甘ったるくて野暮ったい味わいになってまいますし、そもそも糖分も少なくなっていってしまうため味そのものがしなくなっていくことになります。
つまり追熟しないフルーツの味わいは収穫時から常に変化し続けており、そのスピードは酸味→甘味という順で減っていくと考えられます。
その時にクエン酸の含有量が多い柑橘やパイナップルのようなフルーツに関しては、少しだけ時間を置いて水分と酸を抜いてやると収穫時よりも濃厚な果肉を楽しめるということになるでしょう。
ただしこれは食べる人の好みにもよります。食べ手にとって最良のタイミングを意図的に狙うという意味では熟成行為になるかしもれませんが、一歩間違えれば品質の劣化にしかなりませんし、やり過ぎれば腐敗に繋がります。
特にいちごやぶどうのように傷むのが早いフルーツは極力収穫後すぐのものを食べるようにするのがおすすめです。
果物の追熟の魅力のまとめ
果物の追熟、熟成について考えてきました。
熟成という言葉にはいくかの定義がありますが、基本的な定義として広辞苑には「十分に熟してできあがること」と記されています。
この場合、追熟はもちろか熟成の一種ですが、熟成しない果実の酸や水分を食べる人にとってベストなバランスに調整するのも熟成とて考えることもできるでしょう。
結果的に美味しく楽しむことができればそれは熟成といえると思います。
フルーツの楽しみ方は人それぞれですが、その時期、品種に合わせて最も美味しく楽しむ方法を考えながら食べると楽しみはより広がるのではないでしょうか。
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*1:参考:愛媛県庁/Q&A(品質編)