日々の食卓や飲食店に訪れた時に使われる食器について皆さんはどれくらい知っているでしょうか?普段料理をする人やもともと食器類に興味のある人はともかく、なかには全く食器を意識していないという人もいることでしょう。
日常で私たちが使っている食器類にはさまざまな種類がありますが、なかでも古くから使われてきたものに陶器と磁器があります。食器にこだわりはじめるとまず好みが別れるのも磁器派か陶器派かいう点ではないでしょうか。
今回は食器類にちょっと興味を持った人に向けて磁器と陶器の違いや歴史について少しまとめます。奥深い食器の世界を知ってぜひ今後は食事のさいに食器に意識を向けてみましょう。
磁器と陶器の違いは原料と焼き方にある
まずは磁器と陶器の違いを大まかに把握しましょう。
端的にいってしまえば磁器と陶器の違いは原料と焼き方の違いです。陶器は粘度を成形して低温焼成したもの。いっぽうの磁器は珪石や長石、カオリンといった素材の粉末を磁土に混ぜ込んで高温焼成します。そのため陶器は土もの、磁器は石ものと呼ばれます。
完成した作品は陶器の方が無骨、素朴、温かみがあり土の質感を持つ傾向にあり、磁器の方が繊細、滑らか、硬質で叩くと金属音がする傾向にあります。
磁器と陶器の歴史
磁器と陶器の歴史は非常に複雑でまとめるのが難しいものです。
陶器と磁器の歴史について考えるには、まず焼き物全般についてもう少し広く把握する必要があるでしょう。陶器や磁器のように焼いて成形した器を焼物と言いますが、焼物には陶器と磁器以外にも分類的に土器と炻器というものも存在します。*1
土器は陶器、磁器の全身と呼べるもので原則として窯を用いず、釉薬と呼ばれる焼き物用の薬品をかけることもせず作られる焼き物を指します。紀元前7000年頃にはすでに中国やオリエントで土器作りはすでに開始されていました。日本でも縄文土器、弥生土器といった言葉は日本史の授業で覚えた記憶があるのではないでしょうか?
その後しだいに技術が確立され、窯で焼成し釉薬を塗るという一連の流れが出来たことにより、土器は陶器として新しいジャンルを確立します。
さらに後漢の時代には中国で磁器という新しい焼き物の形が生まれます。まずはじめに青磁と呼ばれる青磁釉を施した青緑色の磁器(炻器も含むことがある)が作られ、6世紀頃には白磁が生まれることで磁器としての存在が本格的に確立していくこととなります。
上が白磁、下が青磁のカップ。
ちなみに磁器が日本へ伝来するのは豊臣秀吉の時代で、1610年ころには有田西部でいまの伊万里焼に相当する磁器が作られたという話があります。
またヨーロッパへ伝播するのは13世紀、さらにヨーロッパで磁器生産が盛んになるのはさらに先の18世紀まで待つことになります。今や磁器というと食器に疎い人には西洋的なものの象徴としてとらえられている節もありますが、じつは焼物の文化に関してはアジアの方がはるかに古くからその歴史を持っていたということになるわけです。*2
代表的な世界の陶器、磁器
日本の陶磁器の産地とブランド
日本の陶磁器の産地
日本三大陶磁器と呼ばれる「伊万里」「瀬戸」「美濃」を中心に日本各地に点在している焼き物の産地。磁器の産地として日本最古といわれる有田では1828年の大火で多くの職人が地方へ散らばったことで各地で磁器生産がはじまったことが有名ですが、おそらく時代ごとに中心地となっていた焼き物の産地から職人の移動によって日本全国に産地が生まれることとなったのでしょう。
日本には国の伝統的工芸品に指定されている場所だけで31箇所あり、三大陶磁器以外にも九谷、薩摩、萩、信楽、益子、万古、常滑、備前、丹波、伊賀、唐津焼などが有名です。*3
日本の陶磁器メーカー
各地の陶磁器産地はそれぞれ小さな造り手が集まって形成されていますが、それとは異なり比較的大きな会社形態で陶磁器を製造・販売する陶磁器ブランドも少なくありません。
代表的なものではノリタケ、大倉陶園、ナルミ、たち吉、香蘭社、ニッコー、深川製磁などが挙げられます。
世界の陶磁器の産地とブランド
世界の陶磁器の産地は挙げるとキリがありません。日本の陶磁器が非常にハイレベルなのであえて海外の陶磁器に触れる機会が少ないのも、私たちにとって海外の陶磁器に馴染みが薄い要因かもしれませんね。
それでもヨーロッパでは今では世界的に認められている陶磁器ブランドが多数存在します。ウェッジウッド(イギリス)、ミントン(イギリス)、マイセン(ドイツ)、ローゼンタール(ドイツ)、リチャードジノリ(イタリア)、ロイヤルコペンハーゲン(デンマーク)、アラビア(フィンランド)、レイノー(フランス)などは日本でも人気が高く憧れている人も少なくありません。
またフランスのリモージュ焼やセーブル焼、オースリアのグムンデン陶器など焼き物の産地として日本でもその名を知られている地名も少なくありません。すべての陶磁器の故郷ともいわれる景徳鎮(中国)も知っておきたい産地のひとつでしょう。
ボーンチャイナは磁器の一種
牛の骨を混ぜるボーンチャイナ
焼き物について知っていくとボーンチャイナという言葉を耳にすることもあるかもしれません。ボーンチャイナとは磁器の一種で、ボーンアッシュと呼ばれる牛の骨灰を混ぜ込んで作られた磁器の総称です。薄さを持ちながらも透光性が高く強度が強いのが特徴とされています。
このボーンチャイナは歴史的に見れば18世紀にイギリスで成立した技法で、日本ではノリタケというメーカーが研究の末に昭和10年から本格的に販売を開始しました。
ボーンチャイナの商品は食器の裏底にそれと分かるように記されていることもあるため、ブランドの名前かなにかと勘違いしている人も多いのですが、磁器の種類だということを覚えておきましょう。
ノリタケのボーンチャイナのティーポットの底にあるサイン。紅茶を淹れるのにはミネラルを含んだボーンチャイナが適しているという人も多い。*4
軟質磁器・硬質磁器とボーンチャイナ
磁器には大きく分けると軟質磁器(ソフトペースト)と硬質磁器(ハードペースト)が存在し、一般的に磁器というと硬質磁器を指します。
軟質磁器は媒溶原料である素材をたくさん混ぜこんで磁器としては比較的低温の1200度程度で焼成されるもの。白く緻密で透光性が高いのが特徴です。
主にヨーロッパで16世紀から18世紀にかけて生み出された技法で、イタリアのメディチ磁器、フランスやベルギーのフリット磁器、フランスのセーブル焼の初期のものなどがこれにあたります。
焼成中に変形しやすいため生産効率が悪く現代ではあまり作られることはありません。ボーンチャイナは現在でも作られる軟質磁器で、その点においては非常に珍しい存在であると捉えることも出来るかもしれません。
ノリタケのボーンチャイナのカップ。繊細で乳白色のなめらかな質感が魅力。
まとめ
陶器・磁器の違いからその歴史、産地についてざっくりとまとめてきました。陶磁器の歴史は改めて調べていくと非常に奥深く、複雑で調べれば調べるほどロマンを感じるものだということが分かりました。人によっては解釈が異なる部分もあるため学問的に追求するとキリはなさそうです。
陶磁器に興味のある人は、陶磁器の基本として陶器と磁器の素材、作り方の違いと中国を祖として発展していった陶磁器の歴史の流れだけでもおさえておくと、より楽しめるかもしれませんね。
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*1:炻器はストーンウェアとも呼ばれ、土器と陶器の中間的性質を持っています。炻器は西洋の陶磁器の世界では一分野として確立していますが、日本では炻器を正式な分類として認めない人もいるうえ、磁器と陶器の話をするうえではややこしくなるのでここでは割愛します。
*2:それまでのヨーロッパでは銀器や錫・銅の合金が主流。
*3:参考:日本のやきもの/産地マップ