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ワインやチーズなどのAOP、DOC、AOCとは?違いを丁寧に解説

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イタリアやフランス料理が好きな人、もしくはワインやチーズに興味のある人であれば、AOCDOPという言葉を聞いたことがあるかもしれません。


しかし、それが具体的にどんなものなのかまで理解している人は少ないのでは?そこで今回はヨーロッパ食材をややこしくしている、これらの制度についてわかりやすく解説して参りましょう。

食文化を守るためのAOCやDOC

ワインやチーズはヨーロッパの食文化においてとても重要なものです。自国での消費はもちろん、他国への輸出などひとびとの生活を支える柱の一つなので国や生産者を中心に独自性を守ろうとする動きが活発です。


そんな理由から、ヨーロッパではワインやチーズといった特産品を国が定めた精度で厳格に管理してきました。この制度がAOCDOCと呼ばれるものです。


これらの法律は日本語で原産地統制呼称と表現されます。


ある商品がどこどこ産のどういう商品ですよ、ということをラベリングして保証する制度で、この記載のある品物はいわば政府のお墨付きなので消費者は安心して購入できます。「ホンモノ保証!」みたいなものということですね。


日本の制度で言えばJAが産地を示して青果にシールを貼るのと似ているかもしれませんが、AOCやDOCは商品ごとに産地や最低限の品質だけでなく、生産される畑の状態、製造過程までを含めた、かなり細かいレベルで規格化されているのが特徴です。



AOC、DOPとは・・・

その名前を名乗るために必要な水準を満たした商品に与えられるもの、もしくはその水準そのもの


さてこの規格、なぜ一つだけではなく、AOC、DOCといったふうに複数存在するのでしょうか?


答えは簡単、AOCはフランス、DOPはイタリアというように、原産地統制呼称は国ごとに制定されているためです。やっていることは一緒でも、国ごとに法律の名前や仕組み自体は微妙に異なります*1。ここからは原産地統制呼称を利用する主な国をそれぞれ見ていきましょう。


ワインやチーズを厳格にブランディングするフランスのAOC

AOC = Appellation d'Origine Controle


フランスは古くから自国の文化に誇りを持って向き合ってきた国です。ワインやチーズなど、世界中で愛されるグルメな食文化は、商品を厳格にブランディングすることで地位を築いてきた側面もあるでしょう。フランスの場合はAOCという制度で食文化を守ってきました。


ワインであればOrigineの部分に産地がはいり、ブドウの品種からワイン造りまでを指定していて、その基準を満たした高品質なものでなければAOCワインを名乗れません*2


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こちらはフランスはボルドーのワインの裏ラベル。 APPELATION BORDEAUX CONTROLEEの記載がある。


チーズでは40以上のチーズがAOCで規格化されています。これらのチーズは名前を名乗るためにAOCの基準を満たす必要があります。



有名なものでいえばカマンベールは本来カマンベールドノルマンディというものが本家本元ですが、この名を名乗るには産地から作り方まで気を配る必要があります。逆にノルマンディのつかないカマンベールは、産地、原料、作り方などにおいてこの規格を満たしていないということです。*3



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ブリード"モー"もAOC認定を受けないと名乗れない。それ以外のものはブリーとして流通する。

オリーブオイルからハムまで幅広く統制するイタリアのDOCとDOCG

DOC = Denominazione di Origine Controllata
DOCG = Denominazione di Origine Controllata e Garantita


AOCと並んで耳にする機会が多いのがイタリアの定めるDOCDOCGです。イタリアではオリーブオイル、バルサミコ酢、加工肉、オリーブ、もちろんチーズやワイン、さらには果物や魚介に至るまで幅広くDOCを定めています。


一般的にはDOCよりもDOCGのほうが格上だと考えられています。イタリアワインの王様であるバローロなどはもともとDOCでしたが、1980年にDOCGに昇格しています。


名前や構造、対象となる商品は違っても基本的にはAOCと同様、自国特有の商品をしっかりと統制しブランディングするための制度と考えることができるでしょう。


その他の国々の原産地統制呼称

フランスのAOC、イタリアのDOCとDOCGが日本では目にする機会も多いところですが、ヨーロッパではそれ以外の国でもこのような統制呼称を使用しています。


例えばスペイン。近年日本にもスペインの食品がたくさん入ってきていますが、原産地統制呼称をDOとDOCaというふたつの階級で統制しています。DOよりDOCaのほうが格上。この辺りはイタリアと似た構造です。


ドイツも特にワインにおいては原産地統制呼称を使用しています。ドイツワインは収穫した葡萄の糖度で分類するという変わった方法をとっていて、原産地統制呼称相当のものはQmP(Qualitätswein mit Prädikat、Prädikatswein)およびQbA(Qualitätswein bestimmter Anbaugebiete、Qualitätswein)と呼ばれています。

ヨーロッパ共通の規格AOP(DOP)

このようにヨーロッパでは各国が独自の原産地統制呼称の制度を作り上げることで、商品の品質を国単位で維持してきた歴史があります。


しかしここまで見てきたように国ごとに制定されるこれらの仕組みは、今となっては逆に消費者を混乱させるもとにもなってしまっています。


そこでヨーロッパでは2006年*4よりこれらの仕組みの名称を統一するように働きかけました。それがAOP(appellation d'origine protégée)と呼ばれるシステムで、従来のAOCやDOCといった原産地統制呼称に値する規格を、原産地呼称保護(AOP)という新たなヨーロッパ統一の名前の制度に切り替えたわけです。


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このように移り変わったと考えるのが一番理解しやすいだろうか


ただ切り替えたといっても規格を新たに作り直したわけではなく、基本的にはAOCやDOC、DOCG、DOaといった各国の原産地統制呼称をそのままAOPに組み込んだ形で、その品質維持に大きな変化が起きたわけではありません。


加えて当面の間は各国の統制呼称(AOCやDOC)を使ってもよいということになっているため、現状ではAOP表記の商品を目にする機会は意外と少ないといえます。


ちなみにこのAOP。国によっては呼び名が異なっているというややこしい側面も持っていて、イタリアでは「DOP = Denominazione di Origine Protetta」、スペインでは
DOP = Denominacion de Origen Protegida」
と呼んでいます。言語まで統一しないところがなんともヨーロッパらしくて面白いですね。わかりにくさが残ってしまっているので本末転倒な気もしますど・・・。

より広い範囲で地理的な特徴を含んだ商品を規定するIGP

ここでもう一つおさえておきたいのがIGP(indication géographique protégée)です。


ヨーロッパでは「地理的表示」という新しい規格制度のためにAOP(=DOP=原産地呼称保護)というシステムを制定しましたが、AOPが比較的格の高い品質証明なのに対し、1ランク下の規格がIGP(地理的表示保護)と呼ばれるもの存在します。


AOPが産地はもちろんのこと、その製品の歴史までを考慮して原料や製法を重視する(ようは「昔ながら」の作り方にこだわっている)のに対し、IGPはもう少し広範に、地理的な産地に着目した規格になっているのです。


もちろん製法や原料もある程度規格化されていますが、AOPと比べると認定を受けるのは容易で、結果的には品質のバラつきもAOPより多いといわれています。


こちらもAOP同様に、もともとIGPに値する規格表現があった場合はそちらを使ってもよいことになっています。例えばフランスワインではヴァンドペイ(Vin de Pays)、イタリアワインにおけるIGT(Indicazione Geografica Tipica)などが該当。基本的には国によってもともと複雑な制度があるワインに使われていた規格ですが、その他の農産物にもIGPの商品はありますね。(トスカーナ州のオリーブオイルなど)。



また、AOP同様にIGPも国によって言葉が異なっていて、ドイツでは「g.g.A=geschützte geografische Angabe」、イタリア・スペイン・フランスは表記はIGPでも、それぞれの言語で「protected geographical indication」「indicación geográfica protegida」「indication géographique protégée」と表現されます。

AOP/IGPやAOC、DOCなどの認定の良し悪し

ここで紹介してきた規格は、確かに農作物の歴史と伝統を重んじ、かつそれぞれの土地から生み出される唯一無二の食材とそこから生み出される特産品を容易に他人や他国に名乗らせないという重要な意味があります。この規格によって私たちは紛れもない「本物」のヨーロッパ食材を見分けることができるわけです。


一方でこれらの規格には以下のようなデメリットもあります。認定を受けているかどうかは商品を選ぶためのひとつの基準ですしハズレも少ないのですが、認定を受けていないから買う価値のない商品ではないということだけは覚えておきたいですね。

認定されていない商品が認定されている商品に劣ると勘違いされてしまう

このような一種のブランディングは、商品の本質を見誤らせてしまう危険性をはらんでいます。もしもAOP認定されているチーズとされていないチーズがあったら、認定されているほうが美味しいと思ってしまいがち。しかし、AOPやIGPの認定を受けるということは裏を返せば個性を出しにくいということでもあります。伝統的な手法や原料使いから外れることができないからです。


認定を受けていればある程度の品質は保証されているでしょうが、逆に認定されていないものの中にも作り手自身の個性を反映させたもの、今までの常識ではありえなかったものなど、魅力的な商品が潜んでいるハズなのです。


玉石混交ではありますが、そうしたなかから魅力的なものを探す楽しみを忘れたくはないですね。

認定を受けるためのコストが高いため、商品の値段が高くなってしまう

認定を受けるにはそれ相応のコストがかかるため、商品にその分の価格が上乗せされてしまいます。ブランド価値もあるので、あまり安価な値段で流通する事はありません。


仮に認定を受けていないけれど品質が同じ商品があったとしたら、おそらく後者のほうが安く手に入るということになります。これについては以下のイタリア食材店サイトの「DOPとIGP認証について」という項で詳しく解説されていますので参考にしてみてください。



オリーブオイルの選び方 エクストラバージンオリーブオイル その2 | イタリア食材直輸入の「il Bianco」

まとめ

AOP/IGP、DOCやAOCとの関係を図式化してみました。

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感覚的にいえば、AOPが「とても気合の入った物」、IGPが「ちょっと気合の入った物」といった感じでしょうか。もちろんAOP/IGP以外にも気合の入った品物はたくさん存在しますが、AOP/IGPは客観的な評価を受けたうえで流通しているので、信頼度が高い。その分少し値段も張る・・・といった認識になると思います。


多様な文化が入り混じるヨーロッパらしい制度。チーズ、ワイン、オイル、加工肉といった歴史ある食品をより深く楽しむためには知っておいて損の無い知識だと思います。




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*1:もっといえば同じ国でも種類ごと(ワインにはワイン、チーズにはチーズ)に規格の構造もかなり違います。

*2:日本に輸入されているフランスワインの多くは実はAOC認定を受けたものです。

*3:もちろんだからイコール劣化版とは言えません。これが難しいところですが

*4:ワインは2008年より