貴腐ワイン、ソーテルヌ、アイスワイン。
その名前くらいは聞いたことのある人もいるかもしれませんが、いったいこれがどんなワインなのか詳しく理解している人は少ないのではないでしょうか?
どれもデザートワインと呼ばれる甘口のワインで、一度その甘美な味わいを知ってしまうと虜になってしまう魅惑的なお酒です。
本記事ではまだたま日本ではその魅力が広く知られていないこれらのワインの基本的な知識について解説していきます。
- カビから生まれる奇跡のワイン・貴腐ワインとは?
- 貴腐ワインとソーテルヌ、アイスワイン、デザートワインの違い
- 世界三大貴腐ワインとさまざまな産地の貴腐ワイン
- 貴腐ワインやアイスワインを楽しもう
- 貴腐ワイン、ソーテルヌ、アイスワインの違いとは?のまとめ
カビから生まれる奇跡のワイン・貴腐ワインとは?
貴腐ワインは以下のような特徴を持っています。
- 通常の白や赤ワインに比べて非常に甘いワインである
- 甘さの一部または全てが葡萄由来なので繊細かつ上品でくどくない
- 貴腐香という特有の香りを持ち合わせている
- 他のワインと比べても長い熟成に耐え、保管も可能なので贈答用やバースデーワインとして優れている
このワインは一般的なワインとは少し異なる製法で作られています。
そのなかでも最も異なっていて特有の味わいを生み出す原因となっているのがカビた葡萄から作られているという点でしょう。
「カビた」と聞くとぎょっとするかもしれませんが、まずはその辺の貴腐ワインの特徴とも言えるその製法を見ながら貴腐ワインとはどんなワインなのかを明らかにしてみましょう。
貴腐ワインを生み出すカビ
自然界には多種多様なカビが存在しますが、貴腐ワインを生み出すカビはボトリティスシネレアというカビです。
このカビは基本的に作物に有害なのですが、セミヨン・リースリングなど白ワイン用品種の成熟果実に付着した時のみ葡萄の糖度を上昇させ、特有の芳香をまとい、干しブドウのような状態になるという特性を持っています。
この状態になったブドウは貴腐葡萄と呼ばれ、貴腐ワインの原料となります。
貴腐葡萄が甘いデザートワインに変身する
アルコールは糖によって生まれます。
カビによって通常の葡萄よりも糖度が上昇した貴腐葡萄を用いいると、ワインは発酵を終えた時点でワイン中に多くの糖分を残したままになっているため甘いワインに仕上がります。
貴腐葡萄は非常に希少で状態のコントロールも難しいため、貴腐ワインの中には100%貴腐葡萄を用いたもの以外にも一部に貴腐葡萄を用いて残りは普通の葡萄を使って作るものも存在します。
この場合は糖分を補うために人工的に補糖が行われます。
当然100%貴腐葡萄を用いた貴腐ワインのほうが量は少なく高価な傾向にあります。
こうして生まれた貴腐ワインは、貴腐香という特有の香りをまとい上品な甘さを持った唯一無二のワインになるのです。
貴腐ワインとソーテルヌ、アイスワイン、デザートワインの違い
貴腐ワインと混同しがちなキーワードに、ソーテルヌ、アイスワイン、デザートワイン、トカイワイン・・・などがあります。
実際にグーグルなどで検索をかけても検索候補にこれらのワードが並ぶ辺り、疑問に思っている方も多いのでしょう。
まずはデザートワインという大枠について解説しておきます。
これはザックリ言って糖度の残った(あるいは補糖)甘いワイン全般を指します。
基本的には食後にデザートとして楽しむワインで、貴腐ワインもこの仲間です。
デザートワインに分類されるワインは他にポルトガルのポートワインやマディラワイン、イタリアのヴィンサントやパッシート、スペインのペドロヒメネスシェリーなどが挙げられる。
ここで注意ですが、ここでいう"甘い"とは日本酒などでいう甘口/辛口というレベルではなく、砂糖水か水かくらいの意味での甘みです。
デザートというくらいですから「とても甘い」お酒に分類されます。その甘さはどちらかというとリキュールと同等くらいのイメージでいたほうがいいでしょう。
日本では諸々の理由から今まであまりデザートワインを飲む習慣がありませんでしたが、近年では食の欧米化や単純に甘くて飲みやすいお酒として徐々に浸透しつつあります。
日本人と甘いお酒
日本人があまり甘いお酒を飲まない理由は諸説ありますが、日本酒が比較的甘さを持っていることや和食に甘みが多用されることから食後に甘味を摂取する意識が欧米より少ないというのが大きな要因でないかと考えられます。
そもそもデザートワイン自体が海外でも特殊な位置づけで生産量が少ないというのもあるかと思いますが・・・。
貴腐ワインとアイスワインの違い
さてもう一度先ほどの図をご覧ください。
デザートワイン全般について解説するとキリがないので、今回は系統や味わいが近しい貴腐ワインとアイスワインに限定して図式化しています。
貴腐ワインとアイスワインはどちらもデザートワインの一種ですが、貴腐ワインが先述のとおり貴腐化した葡萄を用いて作られるのに対し、アイスワインはその名の通り凍結した葡萄を用いて作ります。
凍結した葡萄は水分が凍結し、残りの成分が未凍結部に集約されて味や糖分が凝縮されます。
その結果、貴腐ワイン同様甘みの残ったワインに仕上がります。
ワインの色合いや味の傾向が比較的近いことから貴腐ワインとアイスワインは混同しがちなワインですが、その製法は大きく異なっているんですね。
貴腐ワインとの最大の違いは貴腐菌による貴腐香が生み出されないことです。
そのためアイスワインの方が香りはスッキリとしていて、軽快でシンプルな味わいになる傾向にあります。
好みによりますが、熟成酒や香りの深いお酒好きには貴腐ワイン、単純に甘いのが好きっていう方にはアイスワインがウケる傾向にあります。
熟成に耐えうる、稀少性がより高いなどの観点からも値段的には貴腐ワインの方が高価です。
例外はいくらでもありますしアイスワインにはアイスワインの良さがありますが、一般論として貴腐ワインの方ランクが高くより嗜好性の高いお酒というイメージでいるとよいでしょう。
アイスワインの産地として有名なカナダのワイン。ほかにもドイツなどがアイスワインの産地として有名。
世界三大貴腐ワインとさまざまな産地の貴腐ワイン
今度は貴腐ワインについてもう少しみてみましょう。
専門的に行くとかなり細かくなってしまうため、大ざっぱに解説していきます。
とはいえ今度は先ほどのデザートワイン全般の時ほどややこしくはありません。
理解すべきポイントは2点。
- 貴腐ワインは世界中で作られている
- 一般的に世界三大貴腐ワインという分類がある
これさえ把握しておけば、貴腐ワインを選んだり飲んだりする上では十分すぎる知識だと言えます。
図にするとこんな感じになります。
貴腐ワインは世界中で作られている
まず第一のポイントとして、貴腐ワインは特に産地の特定されたお酒ではありません。
要は貴腐菌、すなわちボトリティスシネレアが存在していれば理論上は世界中で貴腐ワインは生産できるはずなのです。
主な産地としてはフランス、オーストラリア、ドイツ、ハンガリーなど。
実は日本でも1970年代に生産に成功し、以来少量ながら国内産貴腐ワインも出回っています。
ただし、貴腐ワインが作られるには貴腐菌が繁殖しやすい環境下である必要があります。
この適性環境が整っていればいるほど良質な貴腐ワインが完成するのですが、この条件が整っている産地は世界的にみてもわずかで世界的にみた偉大な貴腐ワイン産地は限られる結果となっているのです。
世界三大貴腐ワイン、ソーテルヌ・トカイ・トロッケンベーレンアウスレーゼ
貴腐ワインのなかには世界三大貴腐ワインというものが存在します。
フランスのソーテルヌとそこに連なるボンム、フォルグ、プレイニャック、バルサックで作られるソーテルヌワイン(ソーテルヌは地名でもあり国の規格名でもある)。
ハンガリーのトカイ地方とその周辺の認められたトカイ地区で作られるトカイワイン。
ドイツワインで土地の制限こそないものの、クヴァリテーツワイン・ミット・プレディカート Qualitatswein mit Pradikatというドイツワインの最も格の高いランクの中のさらに最上級のワインを示すトロッケンベーレンアウスレーゼ。
上記3つの貴腐ワインは、貴腐ワイン造りにおける歴史、知名度があり、貴腐菌の醸成にも適した地域で造り手ごとにみても世界レベルの貴腐ワインの造り手がいる産地です。
ソーテルヌ、トカイにはそれぞれが国で定めたさらに細かい等級区分もあるのですが、この辺りはややこしくなるので割愛します。
ここでは、貴腐ワインといえば原則、フランス、ドイツ、ハンガリーの3国。次いでオーストラリア辺りが最近では高品質貴腐ワインを作っていると覚えておきましょう。
貴腐ワインやアイスワインを楽しもう
日常なかなか飲む機会の少ない貴腐ワイン。
飲食店で飲もうにも基本的にはあまり取り扱いのあるお店は少なく、あるとしたらそれなりのワインバーやフレンチレストランなどで探すことになるでしょう。
元値が高く、需要の面からグラス売りもあまりされないため、お店で飲む場合はボトルで高いお金を払うことになることも・・・。
そのため、貴腐ワインこそボトルで買って家飲みがオススメだといえます。
糖度がしっかり残っているので普通のワインと違って冷蔵庫で保存すれば2か月くらいは楽しめます。
貴腐ワイン・ソーテルヌの最上級ブランド・シャトーディケムは目玉が飛び出る価格帯。ハーフボトルでも相当な価格ですが、他を寄せ付けない王者の風格。筆者も一度だけ飲んだことがありますが、かなりうまいです。
ここまで高くなくても良いけど一流の貴腐ワインを飲みたいという方にはシャトー・リューセックがおすすめ。
爽やかなアロマにはちみつのような優しい甘みが感じられ、貴腐ワイン全体のなかでみても上位クラスの味わいながら、ディケムと比べるとだいぶお求め易い価格帯。
セカンドブランドのカルムドリューセックならなお試しやすいです。
シャトークリマンはソーテルヌの中でも特に繊細で甘さと酸味のバランスが絶妙。
トカイワインはプットニョスという規格でランク付けされていて、数字が高ければ高いほど上質で高級。3プットニョスくらいならデイリーワインにも使える。
オーストラリアを代表する貴腐ワインであるノーブルワン。こちらも絶対値は高いですが、クオリティから考えたらコスパの良い商品です。
こちらはちょっと変わったリンゴのアイスワイン。
ブドウのワイスワインとは異なりリンゴを凍結させて作っているわけではないのですが非常においしいので筆者も毎年買っています。
デュポンはカルヴァドスの作り手です。
デザートワインもピンキリですが、あまり安価なものは頭が痛くなるという人も多いです。
特に貴腐ワインは製造にかかるコストを考えたら低価格帯のものはリスキー。フルボトル5000円は超えるレベルのものを選びましょう。
5000円以下で探すのであれば貴腐ワインよりアイスワインのほうがアタリは多いと思います。
貴腐ワイン、ソーテルヌ、アイスワインの違いとは?のまとめ
- デザートワインとは糖分のある甘口のワイン
- 貴腐ワインは特殊なカビがついた葡萄から作る甘口のワイン
- 世界三大貴腐ワインはソーテルヌ(フランス)、トカイ(ハンガリー)、トロッケンベーレンアウスレーゼ(ドイツ)
- アイスワインは凍結して濃縮された葡萄から作る甘口のワイン
- 貴腐ワインとアイスワインは共通項はあるものの根本的に製法が異なる別のワイン
おおまかにデザートワイン、貴腐ワインとはなにか?アイスワインやソーテルヌの違いはなにか?ということを分かって頂けたでしょうか?
これを機会にぜひ貴腐ワインやアイスワインについての理解を深めご自宅や飲食店で楽しんでみましょう。
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漫画「神の雫」では第十二使途(40巻~)に熟成による神秘を体現するワインとして貴腐ワイン(シャトーディケム)が選ばれています。
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また、ソーテルヌを贅沢に使用した貴腐ワインチョコレートもおすすめ。貴腐ワインのアテにも最適です。
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同じくデザートワインの王様として貴腐ワインと対をなすポートワインにも注目です。